ヘッジファンド(英語: hedge fund)は、代替投資の一つ。通常は私募によって機関投資家や富裕層などから私的に大規模な資金を集め、金融派生商品などを活用した様々な手法で運用するファンドのこと。

  • 公募によって一般から広く小口の資金を集めて大規模なファンドを形成することを目指す通常の投資信託とは、私募である点が異なる。購入方法には、機関投資家が証券会社を経由してストラクチャーを組んで投資する方法と、個人投資家が投資助言会社を経由して直接運用会社の提供する商品に投資する方法とがある。
  • 世界のヘッジファンドは大部分がオフショア籍であり、金融庁に無登録なので、日本国内では原則的に販売できない。銀行証券系では「シティバンク銀行」「三菱UFJモルガン・スタンレー証券」を通じて購入できる[1]。 通常の投資信託がベンチマーク対比でのリターン(相対リターン)を目指すのに対して、ヘッジファンドは実際に資金がどれだけ増えたか(絶対リターン)を目指す。
  • 投資金額 [編集]
  • 投資の最低額が、日本円で1億円以上と高額である場合が多く、ヘッジファンドの参加者はアメリカで99人以下、日本でも49人以下(証券取引法で規定する少人数私募の場合の勧誘数上限。適格機関投資家向け私募投信の場合は、人数制限はない)と少人数に限られる。最近では、最低投資単価が500万円または1000万円で、個人投資家が投資できる例もある。
  • 募集金額にあらかじめ上限が設定されていることなどから(理由は後述)、資産規模は一般の大型投資信託に比べてあまり大きくはない。一般の投資信託は、投資対象や投資手法などが規制され、情報の開示などが義務付けられているが、ヘッジファンドは一般的に私募による投資信託なので、同様の規制は受けず、自由な運用が可能となっている(当然、四半期や月次ベースでの投資家に対するリポーティングは行われる)。ヘッジファンドは、その投資戦略にもよるが、空売りを積極的に利用するものや、金融派生商品に投資するものも多い。公募の投資信託は、投資に明るくない個人も投資するので、投資家保護のため、運用には様々な法規制がある(多くの国では空売りや金融派生商品への投資などに制限がかけられている)。このため、多くのヘッジファンドは、公募ではなく私募形式を採用している。
  • 絶対的収益の追及 [編集]
  • ほとんどのヘッジファンドは、絶対的収益の追求を目標としている。「絶対的収益の追求」とは、投資信託等の伝統的な運用形態のほとんどが、TOPIXやS&P 500等のベンチマークを上回る運用成績を目標としていることに対する用語である。例えば、不況期の下げ相場の環境では、伝統的資産運用の実績がマイナス20%でも、同じ期間のベンチマークのパフォーマンスがマイナス25%ならば、ベンチマークを5%だけアウトパフォームしたといい、マイナスの運用実績でも「良好」な運用成績とされる。こうした伝統的な運用形態のパフォーマンス計測に対し、ヘッジファンドは、不況などのどんな環境下でもプラスの運用実績を目指すことを究極的な目標としている。
  • 所在地 [編集]
  • ヘッジファンドは、一部ではケイマン諸島やブリティッシュバージン諸島などのいわゆるオフショア地域に書類上の本籍を置く一方、運用担当者は東京、ニューヨーク、香港、ロンドンなどの金融センターにいることがある(米国のヘッジファンドはニューヨーク近郊のコネチカット州グリニッジにも相当の集積が見られる)。その理由としては、法規制が厳しくない地域での運用を求める場合もあるが、実際には海外の投資家向けにアクセスを提供することを目的としている場合が多い[2]。海外の投資家の場合、オフショア以外の地域に籍をおくファンドでは、税務上不利となるからである。ファンド自体で課される税金に加え、投資家の居住国でも課税され、かつ控除が認められないことが多いので、二重課税となってしまう。ただし、アメリカのヘッジファンドの大半は、アメリカに籍を置き、アメリカで運用し、かつアメリカの投資家だけにアクセスを提供している。
  • 投資家 
  • ヘッジファンドへの投資家は、年金基金や退職金基金、銀行、投資顧問などの機関投資家が中心である。日本の年金基金もヘッジファンドをポートフォリオに組み込む動きを強めているが、ヘッジファンドのデューディリジェンスの能力を単独でもちうる年金基金はあまりない。したがって、ゲートキーパーと呼ばれるヘッジファンド専門の投資顧問が運用するファンド・オブ・ヘッジファンズ (Fund of Hedge Funds、FoHF) への投資という形態をとっていることが多い。FoHFでは、一つのファンドに投資するだけで様々な運用戦略のヘッジファンドに分散投資する効果が得られる。さらに、有力FoHFの場合は、投資家層を非常に絞っており、投資が容易でない人気ファンドへのアクセスを売りにしている。つまり、単独では投資できないファンドに間接的に投資できるという効果もある。一方で、FoHFの投資先である個別ファンドとFoHFへ二重に信託報酬を支払うことにもなり、ヘッジファンドの平均リターンがようやくプラスという状況では、信託報酬の分だけ、最終投資家へのリターンが減少することになる。
  • 運用成績の良い一部の著名なヘッジファンドは、ヘッジファンドの側が投資家を選別するという行動を取ることが珍しくない。新参者は、いくら資金があっても投資できないということもある。ヘッジファンドの側が投資家を選別する理由の一部は、ファンド規模に制約を設けるためである。例えば、小型株に特化したヘッジファンドの場合、ファンドの規模を流れに任せて拡大させていくと、小型株の流動性の少なさから、自らの投資行動が相場の攪乱要因となる。これによって想定したパフォーマンスが出せなくなることを回避しなければならない。
  • レバレッジ
  • 一般の投資信託は空売りができないので、下げ相場では買持ちしている資産の価値が低下し、運用利回りがマイナスとなる場合が多い。空売りを積極的に利用できるヘッジファンドの場合は、上げ相場でも下げ相場でも利益を上げる機会があり、実際に下げ相場を得意とするヘッジファンドもある。
  • リスクヘッジのために開発された各種の金融派生商品(デリバティブ)を駆使して投機的に高い運用利益を上げようとする投資手法をとる場合もある。デリバティブは原資産の将来の値動きに対するリスクヘッジ手段として開発されたものが多く、一般的なデリバティブ取引では、満期日における原資産の価格と、デリバティブ契約上の取決め価格との差額分だけを決済する。したがって、原資産取引でいう“元本”部分を準備する必要はなく、低額な証拠金(通常は原資産取引元本の3~10%程度)を準備するだけで、原資産取引と同規模の取引が可能となる。この場合、実際の投下資金に対しての運用利回りは、原資産取引の10~30倍程度になる(レバレッジ)。利益だけでなく損失も同様に10~30倍となり、ハイリスク・ハイリターンの取引となる。
  • ただし、かつてのLTCMのように、デリバティブのレバレッジ特性を最大限に活用した超レバレッジ型のヘッジファンドは、もはや一般的ではない。大半のヘッジファンドでは、デリバティブを機動的なリスク管理や、高い流動性を維持しながらの現物資産への連動性確保などに使っている。これは、大半のヘッジファンドには主な取引執行相手となるプライムブローカーが存在し、そのプライムブローカー側がLTCMの崩壊後、ヘッジファンド側のレバレッジ上限を規制するなどのリスク管理を強化するようになったことにもよる。
  • 一見華々しく見えるが、その裏では熾烈な生き残りをかけた競争があり、米国のサブプライムローン問題に端を発した世界的な金融危機の影響によって、多くのヘッジファンドが資金難に陥っている。 また、金融危機を招いた原因の一端もまたヘッジファンドであったことから、2009年3月のG20サミットの結論によっては、ヘッジファンドの取引に厳しい制限が課せられることもありうる。